サルラからバスで30分余り走り、洞窟26、集落跡が147残されているというヴェゼール渓谷の
先史時代の遺跡の中でもとりわけ有名なラスコーの壁画を見に行きました。
1940年に1人の少年が犬を連れて散歩中、穴に向かって犬が吼えるのを不審に思い、
仲間3人を伴って探検に乗り出したのがこの洞窟発見物語の始まりだそうです。
ランプを片手に洞窟に入り、足を踏み外し、転げ落ちながら壁画を発見した少年達は
数日後には町のヒーローになっているとは夢にも思わなかったに違いありません。
1948年から一般公開された洞窟は人の呼吸によって菌類が発生、壁画を傷めることが判明したので、
63年には公開が中止され、研究者以外の立入りが禁止になったそうですが、
11年の歳月をかけて近くに作られた精密なレプリカ、ラスコーUが83年より一般公開されています。
木炭、酸化鉄、酸化マンガンなど当時の絵の具を使い、炭を口に含んだ呼吸や、指、筒スプレー、毛筆を使って、
90%まで手法を模して作られたといわれるラスコーUは、「観光用のレプリカでしょ。」という予想を見事に裏切り、
先史時代のシスティーナ礼拝堂という称賛がうなずける素晴らしいものでした。
躍動感みなぎる牛、馬、鹿など動物の彩画や、まだ意味が解明されていない線刻画などが
全長約250mの洞窟内に1500ほども描かれているそうですが、外光の届かない洞窟内で、
石製のランプだけを頼りに、岩の凹凸を利用して立体感を出したり、5mもある牛を生き生きと迫力ある姿で
描いたという事実そのものが信じられないことでした。
この遺跡には生活跡もなく、発見当初はこれらの絵は狩猟の成功を祈って描かれたものと推察されていましたが、
1万7000年前のクロマニヨン人の時代には、ここに描かれている動物達は狩猟の対象ではなかったことが分かり、
現在は岩の中の精霊と交わる為の儀式が行なわれた聖域ではなかったかという意見が
有力視されているようです。人間が牧畜を始めた1万年前になると、
動物よりも人間の方が上であるという意識が芽生え、動物の壁画は描かれなくなったそうです。 |